大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和49年(行ツ)69号 判決 1976年7月27日

横浜市神奈川区幸ケ谷一七番地の三

第一さくら苑

上告人

深町輝明

横浜市神奈川区栄町一丁目七番地

被上告人

神奈川税務署長

塚田光彦

右指定代理人

二木良夫

右当事者間の東京高等裁判所昭和四八年(行コ)第三一号所得税更正処分取消請求事件について、同裁判所が昭和四九年四月二四日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するか、あるいは原判決を正解しないでこれを非難するものであって、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己 裁判官 服部高顕 裁判官 環昌一)

(昭和四九年(行ツ)第六九号 上告人 深町輝明)

上告人の上告理由

一、二審判決は事業所得の計算につき、所得税法を否定し、そのよって立つ現代会計学を否定した判決を下している。

理由

法人税法のように所得税法で、事業所得の計算につき、一般に公正妥当と認められる会計原則に準拠するという規定はないが、所得税法に特に定める他はこの一般に認められた会計処理の諸原則によらずして、その計算を行うこと不可能である。

その基本的前提条件として、発生主義という収益及費用の認識基準があり、現代会計は発生主義会計といわれる如く、特に基本的概念であること何人も否定できない事実である。

法でいう権利確定主義とは発生主義の別の見方と考えるが、その言葉が費用認識という点で完全でないとしても、発生主義を現在の税法が事業所得の計算という面でとっていることも誰も否定は出来まい。

発生主義会計を前提とする限り、昭和三九年に帰属する所得の計算には、昭和三九年一二月三一日現在において未発生の費用を含ましめることはあり得ない。

含ましめるなら既にこれは発生主義会計ではない。

正規の簿記の原則とは一般に公正妥当と認められた会計原則の上で、過去の歴史の記録であり、それを支える諸事実の発生を前提として信頼しうるものとして、費用把握されたものであるというのは将にこれである。

会計の発展が今日発生主義をとらしめたには、どれ程の試行錯誤の上に、多くの時間を要したかを知れば、この発生主義という概念がどれ程基本的なものか理解できようものを。

判決は違法性が強すぎる。下世話にいうならば、昭和三九年に帰属する所得に昭和三九年一二月三一日以降に発生した費用を含ましめる計算は、鐘と太鼓で探しても世界中どこにもあるまい。

二、判決は妥当なる判決の理由を欠く。

理由

判決は当該所得の帰属年度が昭和三九年であるとしながら、少くとも昭和四〇年一月一日より同年二月二四日迄の間の上告人の著作権協会への毎日の出向に要した時の経過と、その間に発生したその仕事に直接要した費用の発生を認めている。

この点につき、判決は自らその費用につき、当該所得の帰属年度を昭和三九年度の所得より差引くことは出来ないが、所得が減少するのであるから差引けるというが、然らば如何なる場合でも、税法の規定よりして説明できず、又会計の処理の諸原則よりして説明できないに不拘、所得が減少すると争ひの実益はないわけか。そういうことはあるまい。

所得の計算上、又その帰属の年について、収益又費用について、妥当なる専門的判断を下した場合、それを如何なる税法の規定によってかくかくしかじかと説明できず、或は規定がなければ妥当な会計の諸処理の原則よりしてかくかくしかじかと説明できない場合がある程現在の税法も会計処理の諸原則も粗雑ではない。そんなに粗雑なら税金を払う者はいなくなろう。

妥当なる税法上或は会計上の判決理由を付すべきである。

三、判決は争の焦点を誤っている。

理由

判決は昭和四〇年二月二四日までの必要経費をもって争となった所得額を計算することに当事間に争はないという。

所得税法必要経費の規定よりして直接収益に対応する費用の存在することを昭和四〇年一月一日以降、又同年二月二四日以降も存在することを第一審より上告人は述べており、且つ二月二四日以降分としてクリフサイド、ボルガの公給領収証他を証拠として提出しているが、それはそれとして昭和四〇年二月二四日迄として区切るならば所得額はいくらなのだという前提条件を第一審より述べている。誤解は次の点にあると思はれる。

昭和四〇年二月二四日迄の必要経費を立証したのは被上告人の行った争の対象となった更正処分の更正額が昭和三九年一二月三一日迄に発生した費用のみでなく、昭和四〇年一月一日以降同年二月二四日迄の昭和三九年一二月三一日現在末発生の費用を含んでいるので、それを立証しようとしたにすぎない。

これに対し被上告人は更正処分は昭和三九年一二月三一日迄に発生した費用のみによって行はれたと主張して来たわけだが、しからば何故に昭和四〇年二月二四日迄の必要経費が争の対象として誤解されたかということであるが、これは次の理由による。

神奈川税務署原均担当官が事務処理の都合のため昭和四〇年二月と同年七月とで区切った二つの計算をして欲しい。勿論それによって更正処分はしないという約束のもとで、この二つの計算が原均担当官に与えられたものである。

この二つの計算のうち昭和四〇年二月二四日分をもって更正処分をし、その額が争となっているのであるが、二月二四日をもって区切ったことに税法上の理由が特にあるものではないし、これ以外に二月二四日をもって区切った計算の根拠があるものではない。

税法上の必要経費の発生は昭和三九年一二月三一日をもって終り、又昭和四〇年二月二四日をもって終ったと主張したことはない。

然しながら争の経過よりして誤解されたように思はれる。

判決は昭和四〇年二月二四日以降の費用を如何に税法上、会計上の理由によって処理すべきかについてふれるところはない。

即ち無視するならば税法、会計上の理由、又所得の帰属年度の関連等につき述べるところがなければならぬ。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例